わたしは宇宙人を見た!

□サイクリング オン ザ ワールドパッチベイ 006 2004.2.7


その青果市場は東京の真ん中あたりにあった。日雇いのとっぱらいバイトを繰り返し
ていた20代前半の私は、例によって行きの分の交通費だけを持ち、半ば特別攻撃の
ごとく指定された業者の看板の下に向かった。基本的に夜勤のアルバイトは分が良かっ
たので、夕方から簡単なマネキン運びをしてからのダブルヘッダーであった。夜のう
ちにマーケットに運び込まれたブツを迅速かつ正確にトラックの荷台へと積み込むの
が我々の主な任務だ。


夜から深夜にかけての青果市場は動力付き台車のライトやらごついコンクリートむき
出しの天井から下がった電球の明かりが、ひっきりなしに行き来するワゴンやトラッ
クの窓に反射して、猥雑な美すら感じさせる。さながらフェデリコ・フェリーニの映
画のシーンのようだ(2本しか観たことないけど)。


社員に連れられ、野菜やら果物の入ったダンボール箱をジャンル別に分類して配置。
トラックの到着を待つ。トラックが来たら積み荷作業である。この道10年選手であ
るかのように3人一組で「ハイ」「ホイ」「ホイサ」とダンボールの山からトラック
に向けて中継するように投げる投げ込むそして積む。ロングのトラックが来たときは
「はい〜、前にバナナ20、後ろレタス20」と司令塔担当の社員から支持が飛ぶ。
荷台が長いので荷下ろしの手間を考えてのレイアウトになるわけだ。レタスの箱は軽
いから人気があるが、バナナは重いので人気が無い。


さて、こういう仕事はテンポが大事で、それさえ合っていればあまり疲れを感じずに
済む。しかし今日は3人組の真ん中に入ったのが60歳近いおじさんだった。それこ
そこの道30年なんじゃないの? 的な年齢と風采そしてランニングシャツ。


聞けばこのおっさん、先月までサラリーマンだったのだそう。
聞けばこのおっさん、先月まで営業部長さんだったのだそう。
聞けばこのおっさん、無事定年まで勤めて退職したのだそう。


息子も独立したことだし、なんか仕事するかと思ったのだそう。


しかしこのおっさん、何も青果市場で荷役やらなくたって良いだろう。


デスクワーク中心だったこのおっさんが配属されたおかげで、5分でヘバるメンバー
を迎えて度々中断する積み込み。「雇用のミスマッチ」という言葉を思い出しました。


やがて中央コントロールセンターのような青果市場から野菜積載トラックに私も積載
され、仕分け支所的な場所に移動させられる。私が配属されたのはどこかの私鉄のガー
ド下でしたが。これからいよいよ小売りの八百屋さん向けの荷役が始まるのです。夜
明けまでに積み込まなければ八百屋さんの開店に間に合わない!


この話しに出てきたのは神田青果市場。
平成元年に突如飛来したUFOにさらわれて、大田区に転送されたとのこと。

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■ 浅野正蔵サバ長 ■
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